ランドクルーザー70 BJ73購入記

前回の記事で書いた200系ハイエースを売って、100系を買い戻した話の続きをする。

200系を買うために当然借金をしたのだけど、売っぱらってお金ができて100系を買い戻しても金が余った。金が余ると当然車やバイクを買うことになる。そんなときにたまたまヤフオクに薄っすら欲しいなぁと思っていたいい感じのランクル70が出ていた。

奈良へ

ヤフオクを見ていたら、なんとなくよさそうな匂いのするランクルを見つけた。説明はしづらいのだけど、ヤフオク歴15年ともなると写真や文体でだいたいの当たりはずれが分かるようになるのは同士にはわかってもらえると思う。とにかくそういう匂いのするランクルを見つけた。この時点でランクルについてはほぼ無知で、70には3Bという4気筒、1PZという5気筒、1HZという6気筒のモデルがあるんだなぁとか、ショートとミドルとセミロングがあるんだなぁとかをwikipediaで調べて初めて知った。現車は初期型の3Bエンジンを積んだ最終モデル、1989年式だった。奇しくも同い年で、大好きなOHVのディーゼルエンジンが載っている。これは一度見てみたいと出品地域である奈良まで友人を引き連れてハイエースで出かけた。

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現車を見て乗り込んだ瞬間、実家の車だった同じ年代のディーゼルのLパジェロと同じ匂いがした。出品者は車屋さんだったのだけど、聞けば新車から乗っている爺さんがトヨタのディーラーで面倒を見てもらえなくなった後、この車屋さんで整備をしていた車両とのこと。雪が降る地域でもないので、シャシブラすら塗られていない下回りも腐りはなかった。もうこれしかないと思い、その場で購入を決定した。

引き取り

現車確認から2週間後、再び奈良へ。

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現車確認の際にタイヤがヒビ割れでひどい状態だったので、タイヤのみ持ち込んでその場で交換してもらい、いざ出発。走り出した瞬間右ウインカーが点かないことに気が付いたが、ホームセンターでバルブを調達して事なきを得る。

これから静岡まで回送するルートは、途中で何があるかわからないので下道のみ使うことにした。となると名古屋周りではロスが多いので、鳥羽~伊良湖岬まで伊勢湾フェリーを使うルートを選定した。

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車検が切れてから2,3年不動だったらしいが、奈良の街を快調に走る。しかし途中でなんだかクラッチかブレーキの焼けるような匂いがすることに気がついた。停車してホイールを触ってみると、右後だけ火傷するほど熱い。ブレーキを引きずっている。

このままでも走れないことはないが、帰り着くまでに完全にロックしてしまっては困るので、まずは様子を見ようとドラムを開けてみることにした。しかしブレーキを引きずっているから当然なのだけど、ドラムがなかなか外れない。工具一式は持ってきていたのだけど、ドラムをねじで押して抜くためのM8ボルトがない。あいにく田舎道でホームセンターも近くには無いし、最終フェリーの時間は差し迫っている。なんとか使えるものはないかと探したところ、リヤゲートのヒンジを固定しているボルトがM8で、しかもそこそこ長さがあるので押しねじとして使えそうだということが分かった。

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早速外してドラムにねじ込み、無事ブレーキを分解することができた。ホイールシリンダーが錆で固着しているらしく、ハンマーでドつき回してなんとか動くようにして引きずりを解消できた。

そんなトラブルがありかなりひやひやしたが、なんとか無事鳥羽港発の最終便に間に合った。

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伊勢湾フェリーにさえ乗ってしまえばあとは勝手知ったる道。無事磐田までたどり着き、一緒に取りに行った後輩と幸楽苑で飯を食ってバタンキュー。

車検

本来はそんなに急ぐこともなかったのだけど、土曜に引き取りに行って、仮ナンバーの期限が月曜まで。書類もあるし部品も事前に買ってあったので、これは頑張れば月曜車検とれるのでは?と考え慌てて突貫整備開始。

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ホイールシリンダはやはり固着していたのでさびを落としてカップキット交換。


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エンジン回りはとりあえずエンジンオイルとエレメントのみ交換。

 

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月曜の朝、テスターに臨む。初めて行ったところだったが、「車検の時は燃料減らして薬(アンチスモーク)入れてこないとこんな古いディーゼル受かるわけない」とか、ぶつくさ言われるものの、しっかり受かるためのアドバイスをしてくれるツンデレ爺が一人でやっているテスター屋で非常に良かった。ツンデレ爺のおかげで検査も一発合格。無事にナンバーを取ることができた。

BJ73のいいところ

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自分の買った個体は40系から受け継ぐ3Bエンジンが載っている。70系ランドクルーザー(~2004モデルまで)は直4 3.4Lディーゼルの3B, 直6 4.2Lの1HZ, そいつを1気筒減らした直5 3.5L 1PZがあるが、OHVなのは3Bだけ。あとの2種はOHCでタイミングベルト式である。個人的な宗教で高回転まで回らないディーゼルでOHCを採用するメリットはないと思っているし、タイミングベルトという軟弱仕様のエンジンに興味はない。ディーゼルは鋳鉄ヘッドであるべきだし、OHVな3Bが一番70系の使用目的に合致していると思っている。直6が一番優れた形式と思っている割に今だかつて直6の車を所持したことがないコンプレックスもあると思うが、ワゴン系の60や80ではないのだから、ヘビー系はヘビー系らしく産業車両よろしく直4のドカドカエンジンを積んでいるほうが似合うと思う。しかも1HZ, 1PZが直噴なのに対して3Bは古式ゆかしい渦流式。噴射圧も低いし、ノズルの状態にも鈍感なタフなエンジンが70には似合う。

 

100系ハイエースの記事にも書いたが、自分は車のストライクゾーンが極端に狭く、それがトランポ等仕方なく乗る乗り物ではなく、趣味で選ぶ車となればなおさらである。その狭いストライクゾーンにBJ73はいまのところすっぽりはまっている。ちょこちょこ廃番部品も出ているが工夫すればどうにかなる範囲だし、エアコンもあるしで我慢して乗るような年式のレベルではない上に、余計なものが一切ついていない。ランクルの見た目や性能がどうのこうのより、とにかく車として普通なのである。良くもないし悪くもない。この塩梅の車がなかなかないので、これしかない、というよりこれがなくなったら困るな、という感じで出来るだけ長く乗ろうと思っている。

厄介オタクは如何にして200系ハイエーススーパーGLを売り100系ハイエースDXを愛するようになったか

2年前、そろそろ100系も18年落ちとなってなんも考えず乗れる年式じゃなくなってきたし、トランポを新しいものにしてみようかな、燃料代も今の半額だし。と軽い気持ちで2,3年落ちの200系ハイエース1GDディーゼルターボのワイドボディミドルルーフ、スーパーGLを購入したものの、あまりに自分に必要のない装備が多すぎて嫌になって2ヶ月で売り払ってもとの100系を買い戻した。

 

200系スーパーGLの必要ないポイント

スマートキー

そもそも鍵が分厚いのが持ち運びに嵩張ってイラつく。スマートキーだから鍵を出す必要がないので、カバン等に放り込んで普段はボタン操作だけでドアも開くしエンジンもかかるから便利でしょ?というのは分かる。ただこちとら野郎だからカバンなんか持ち歩かずポケットをブンブンに膨らまして歩いてるので、邪魔な事この上ない。そして盗難防止のためにカンカンに入れて保管しなきゃならんのも面倒くさい。あとバイクに乗る時はトランポの鍵を持ち歩くことになるのだけど、泥まみれになるかもしれない山でそんなものを持ち歩くのがそもそも嫌。

あとは鍵が鍵の形をしていないのが受け付けられない。鍵という言葉はキーマン、とか、問題解決の鍵、など物事の要となる意味合いで使われる事が多い。それくらい鍵という言葉は重要な意味を持たされてきた。車の鍵は納車の時渡されて、ああこれでこの車は自分のものになったんだな、と実感するパーツである。これが物理的な鍵の形をしている事が如何に重要か。例えばこれでお部屋開きますから、と言われて高級ホテルで紙切れに印刷されたQRコードを渡されたらどう思うか?確かに便利だしなんの不自由もないのだけど、味気ないとは思わないだろうか。

インパネ

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このオプティトロンメーターとやらがとにかく夜間で目障り。なぜメーター照明を白くしてしまうのか。明るさ調整もできるが限界まで暗くしてもまだ明るい。そもそもかつての車は夜間目障りにならないようにわざわざ電球に緑やオレンジのカバーをつけて、いかに見やすくかつ幻惑されないようにするかという工夫を凝らしていたはずなのに、どうしてとにかく白く明るくしときゃいいという考えに退化するのか?

あとこれは完全に自分の問題なのだけど、通常オドやトリップを表示する液晶が多機能で、その表示をメーターにあるノブを押すことで切り替える事ができるのだけど、走行中気になって切り替えまくってしまうので運転に集中できず危険。こんなものを付けるくらいならアンメーターでもつけて欲しい。インパネ以外もスライドドアを開けたら足元が光ってみたり(HIACEの文字が浮かび上がるのがまた腹立つし下品)、センターコンソールをぼんやりした光で照らしてみたり(これも白色なので目障り)ととにかく光らせてくる。

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対して100系DXのインパネはどうだ。視認性が高く夜間でも目障りにならない緑の照明、そして必要な情報のみお知らせしてくれて、余計なものが何もないインパネ。男の仕事場はこうあるべきである。

安全装備

車線逸脱のはみだしアラームが、はみ出してないのに誤作動してピーピーなり出すので非常にうるさい。何事かと思うので余計なことは知らせないで欲しい。

ドアミラー

ナローでも視線移動が多くて見づらいのに、ワイドボディの左ドアミラーの視認性たるや。ドアガラスにはワイパーもないので、雨の日は余計にみづらい。DXのミラーに交換してこれは解決したが、100系のスーパーGLにあったカリフォルニアミラーのように、フロントガラス越しにミラーが見えるようにして欲しい。

オートエアコン

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とにかく操作性が悪い。ボタンをやめろと言っている。ノールックで操作できるダイヤルかレバーにして欲しい。

内装

特別仕様車だったので革シート、革ハンドル、革シフトノブがついていたのだけどこれが最悪。我々山ライダーは泥がついたまま車に乗り込む事が多々あるが、この革のシボに泥が染み込んで掃除しづらい事この上ない。またフロアもビニールではなくて絨毯みたいなマットが敷かれているので、フロアマットをゴム製にしたところでこの絨毯に泥が付着しやすく取りづらいので本当にイラつく。

 

100系のいいところ

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車高

運転が雑なので縁石を無視する事がままあるのだけど、同じノリで200系を運転したらガリっとサイドシルを擦ってしまったので100系の方が最低地上高が高いらしい。

エンジン

1TRは速い。1GDのディーゼルターボと比べて遅いのは同じアクセル開度での話では当然だが、きっちり踏めばかなり速い。高速120()巡航でも楽勝なのは当然として、上り坂でバイク2台積みでもこれをキープするだけのパワーはある。ガソリンエンジンはそもそもWOTで使った方がポンプロスが減って熱効率が良い物なので、踏んで使う方が理にかなっている。

ガラスヘッドライト

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ヘッドライトがガラスなので古くなっても車検のたびに磨くなんていう間抜けな行為をしなくて済む。メーカーの言い分としてはくすんだら交換してくださいという事なのだろうけど、めちゃくちゃな値段がする上に全くエコではない。車齢が浅いうちに廃車にされるような車ならまだしも、20年以上は軽く使われるハイエースに樹脂製ヘッドライトを採用するのは理解に苦しむ。

 

とにかく今まで書いてきた200系スーパーGLの悪いところが全くない。必要なものが全てあって、不要なものが一つもない機械は美しい。一度200系スーパーGLに乗ったことで、今までなんも感じてなかった当たり前のことが100系は良くできているんだなぁと感じることができたので、車趣味で乗ってる車ではないのに愛が深まった。大事に乗ろうと思う。

BJ73 ランクル70 定期交換部品の社外優良部品リスト

日本自動車部品協会の自動車優良部品認定されているメーカーを優先して選んであります

型式 S-BJ73V

年式 1989(平成元年)

エンジン 3B-Ⅱ

に適合

エンジン回り

オイルフィルター

純正品番 15600-41010

ユニオン産業 C-110M

エクセル TO-115

東洋   TO-1201

日東 4TP-111

ドライブジョイ(廃盤) V9111-0012

フューエルフィルター

純正品番 23303-64010

ユニオン産業 FC190

MICRO FT-1182

エクセル TF-1897

東洋 FG-1427・FG-107

日東 4TD-507 

エアクリーナー

純正品番 17801-68020

エクセル TA-1449

ドライブジョイ V9112-2010

Micro A1304

東洋 TO-1886

アルプス AA-2273

エアコンベルト

純正品番 99322-01045

三ツ星 MPMF6405

バンドー RAF3405

ファンベルト

純正品番 99343-01235

三ツ星 RECMF8480

バンドー HDPF5480

パワステベルト

純正品番 99343-11510

三ツ星 RECMF8590

バンドー HDPF5590

サーモスタット

多摩 WV73-88

ミヤコ TS-308

ウォーターポンプ

純正品番 16100-59187

アイシン WPT-080

ラジエターキャップ

NTK P539A

車体回り

ワイパー

純正長さ 運転席側425mm 助手席側400mm

これを運転席側475mm 助手席側425mmに変更すると、拭き取り範囲を広くできる

ブレード一式

NWB G48 G43

SHIFT BV-48G BV-43G

替えゴム

NWB GR10 GR8

SHIFT V-48G V-43G

リヤカップキット

純正品番 04476-60050

ミヤコ WK-886

制研 240-42442

フロントキャリパーシールキット

純正品番 04479-30031

ミヤコ SP-217

制研 260-40217

フロントブレーキパッド

純正品番 04465-35090

曙  AN-50K

カシヤマ D2020

住友 SN237

日清紡  PF-1086

リヤホイールシリンダASSY

純正品番 47550-60120

ミヤコ WC-50063

リヤブレーキシュー

ドライブジョイ V9118-7026

カシヤマ Z2280-20

FCマテリアル SN2269-20

フロントキャリパーピストン

ミヤコ  CPS-217B OD=33.93 CPS-217 OD=42.82

制研 150-40106 OD=33.93 150-40217 OD=42.82

 

エンジンが吸い込む空気の量と掃除機のパワーとの関係を考える

吸引力と流量の謎

自作フローベンチを作って実験を進めてみると、どうやら実際のエンジンの動作範囲に近い空気流量は出ているようだが、これがどれくらいの回転数の吸引力なのかという疑問が浮かんできた。今現在掃除機のパワーはmaxで測定しているが、仮にWOTで10000rpmで回っている時の吸引力が掃除機から発生しているとすると、スロットル開度が少ない時にそのパワーで引いてしまうのはなんだかまずい気がする。実際にアイドリングや開度1/8で10000回転も回る状況など無いからだ。これでは低開度時の負圧が云々と議論しても始まらない。というわけで掃除機のパワーとエンジンの回転数の関係を知りたくなった。

理論上の空気量を求めてみる

そこでまずエンジンの回転数によってどれくらいの空気が吸い込まれるかを計算してみる。2サイクルエンジンが吸気するための力を生み出すのは、下死点から上死点までの1ストロークである。つまり回転数によらず、エンジン自体は常に行程容積分の空気を吸おうとする。しかし実際には吸気タイミングやリングからの漏れ、空気の慣性などの影響により、これより下回るかやや上回る範囲で変動する。この行程容積と実際に吸い込まれた空気の量の比を給気比という。実際のエンジンでは、給気比は最高出力回転数で1に近づくようにポートタイミングが設定されている。というわけで今回は給気比1としてとりあえず計算してみる。

排気量125ccの場合、行程容積は当然125ccである。これが最高出力回転数の、例えば10000rpmで回っているとする。10000rpmを1回転あたりの時間に直せば6ms/revとなり、すなわち下死点から上死点までの1ストロークは3msで完了することになる。つまり125ccの容積を3msで吸うわけだから、流量は0.0479m3/sとなる。給気比が仮に1より小さい場合はこの値に給気比をかけたものが実際に吸い込まれた空気流量となる。これで理論上最大に吸い込める空気の量を計算できたことになり、実際のエンジンでこれを上回る空気を吸い込むことはないという、限界の値が求まったわけである。

これで回転数と流量の関係の上限値が分かったが、実際のエンジンでは回転数により給気比が変化するので、これだけを元にするのは心許ない。そこでエンジン出力からも空気量を求めてみる。

YZ125の最高出力はダイノテストの結果を見ると後輪33HP/11500rpm程度で、クランク出力だとこれの1割増しで36馬力くらいだろう。これをキロワットに変換すると、26.9kWとなる。この出力を得るために必要なガソリンの量がわかれば、そこに空燃比を掛けてやれば空気量も分かるという寸法だ。

まず26.9kWを得るのに必要なガソリンの量を計算してみる。Wというのは仕事率の単位で、単位時間あたりに出来る仕事の量を表しているから、26.9kW=26900J/sである。

一方でガソリンの発熱量は44MJ/kgであり、これをJ/gに直せば44000J/gとなる。つまり出力をガソリンの発熱量で割れば、単位はg/sとなり、必要なガソリンの流量が分かることになる。ただしこれは熱効率を1とした場合で、実際のガソリンエンジンでは最近の低燃費エンジンでも最高38%くらいである。少し昔のなんの変哲もない4サイクルエンジンで25-30%であることを考えると、未燃ガスを排気管に垂れ流しているような2サイクルレース用エンジンではせいぜい15%くらいだろう、と想定してみる。つまり、我々はガソリンが持つ発熱量の8割以上を使って山の中でクーラントを沸かしたり、排気ガスとして熱や未燃ガスを捨てたりしていることになる。なんとかしてきれいなお湯でも沸かして熱の回収がしたくなるが、それはさておき、この熱効率を踏まえて必要なガソリン流量を計算すると、4.07g/sとなる。これにA/Fを12として掛け合わせると、必要な空気流量は48.8g/sとなって、これを20℃ 1atmでの空気密度で除してやれば0.0402m3/sとなる。先ほど回転数と給気比から導いた値が0.0479m3/sだから、全然見当違いの数字ではなさそうだ。この差がつまり給気比の差を表しているのだと思う。もちろん回転数によって熱効率も変わってしまうが、それは予想のしようがないので今回は無視する。

とにかくこの方法で計算すれば、各回転数での馬力さえ分かればその回転数で吸っている空気量が分かることになる。各回転数での馬力はシャーシダイナモで測定したデータを拾ってきてやればいい。というわけでYZ125と250について計算してみた。

給気比は馬力から割り出した空気量と、理論上吸えるはずの空気流量との比率として導ける。これを見ると、なんとなくそれっぽい数字になっている。はたしてそんなに給気比が落ちるのか?という疑問はあるが、相場が分からないので良し悪しの判断はできない。ただし馬力は事実のデータであるし、その馬力が出るということはそれだけの空気を吸い込んでいるわけなので、そこまで大きく外した値ではないと思う。

あとはこの値を使って、掃除機のパワーを増減しつつこの空気量になるようなパワーを探し当てれば、掃除機パワーとエンジン回転数の関係を紐づけられることになる。

 

2024/2/5追記

よく考えると低回転での馬力が少ないのはチャンバーや排気タイミングが高回転寄りに設定されているからで、給気比はここまで低くはならなそうだ。低回転では筒内に新気が残らずに吹き抜けてしまっている=熱効率が下がると考えたほうがよさそう。

というわけで給気比は0.8から1.0までの間で変化するとして計算してみる。

キャブレターテスト用フローベンチの改良

前回の記事で作成したフローベンチだが、実験をしてみるとスロットル開度による空気量とノズル負圧の変化が、Th1/4以下の領域で特に顕著だということが分かった。

tutc-mitsukesibu.hatenablog.com

そこでスロットル開度の制御方法を、ワイヤーを接続して出代をノギスで測る方法から改良することにした。

 

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まずスロットルバルブのワイヤーコネクタにぴったり合うサイズの釘を用意


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M4ボルトの先端にφ1.2の穴を空けて、釘を挿入


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IHヒーターで熱して、フラックスを塗り板金ハンダでハンダづけ。IHは鉄物の焼き嵌めにも使えるし便利。高周波焼き入れとかもできないかな?


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ハンダが乗って釘がボルトに固定された


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これをスロットルバルブにセット

 

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キャブに組み込むとこのようになる。トップキャップのワイヤー取付用のねじ穴はM5だったので、ボルトはM4として、トップキャップのねじを使用せずにナットで高さを調整することにした(スロットルを戻すときに早回しができて便利なので)。

スロットル開度はトップキャップとボルト頭の距離をノギスにより測定するようにした。これで、±0.1mmくらいの精度では測れそうだ。


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また掃除機をMAXパワーで動作させると、どうやら2st 250ccスロットル全開5000rpmくらいの流量はでているようだが、もう少し吸引力を弱めた実験もしてみたいのでホース途中にジョイントを付けて穴を空けた。穴をテープでふさいで吸引力を調整できる。

キャブレターテスト用フローベンチの製作

目的と背景

TMXやPWKについて文献を読んでなんとなく分かったようなつもりになっていたが、実際に空気量に対するノズル負圧を計算していくと全く分からないことがたくさん出てきた。というわけでこれ以上理屈をこねくり回しても仕方がないと思い、実験装置を作って確かめることにした。

装置概要

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製作する装置の概要図がこちら。バキュームポンプ(掃除機)でキャブレターのエンジン側から負圧を発生させる。上流側にはYZ純正ダクトを取り付け、それをエアクリーナーボックスを模擬したサージタンクに接続。サージタンクにはベンチュリを通して外気を導入する穴があり、ここにマノメーターを取り付けて空気の流量を測定する。キャブレターはフロートチャンバーを外し、メインジェットとパイロットジェットにセンサを取り付けて、負圧の測定を行う。本当はパイロットジェットから先に分岐するパイロットポートとバイパスポートそれぞれ別に負圧を測れると良いのだけど、そこまでするにはキャブを破壊しないといけないので、今回はこれでお茶を濁す

製作

バキュームポンプ

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負圧を発生させるポンプは家庭用100Vの掃除機を使用。自分の家にはマキタのコードレスしか無かったので、友人からもう使用しないという物を調達。軽く掃除をして、圧損をできるだけ小さくするよう紙パックやファルターを外しておく。さらに圧損を減らすため、ホースを中ほどで切断。これでこの掃除機は二度と床の埃を吸うことはなくなり、一生キャブレターを通した昭和の空気を吸い続けてもらうことになる。

マノメーター

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100均で本立てを購入し、これにベニヤ板を両面テープで貼り付け。ここに300mmスケールとホースを取り付ける。事前にサージタンクに取り付けるベンチュリと、排気量と回転数と給気比から割り出した最小と最大の空気量を見積もって、300mmAq以内で測定できることは確かめてあるが、果たしてうまくいくか。

サージタンク

サージタンクはプラスチックのゴミ箱、ダンボール等色々考えたが、たまたま実家から届いたクール便用の発泡スチロール箱があったのでこれを使うことにした。加工性、気密性が良い。ここにYZ純正ダクトを取り付ける。また別の方向から、塩ビ配管用異径ジョイントを二つ組み合わせて作成したベンチュリを取り付け、ここを空気の取り入れ口とした。参考にした論文では、サージタンクに流量係数が既知のオリフィスを取り付けて流量を測定していたのだけど、オリフィスといえば円管内に設置した場合の例しか見たことがなく、この様なパターンでどこで下流側の圧力を測れば良いのか?計る場所によって圧力が大幅に変わらないか?がどうしてもわからなかった。そこでこれも円管内に設置した場合の例しか見たことはないが、ベンチュリで測定することにした。これなら圧力を測る場所には迷わない。不都合があれば上流の直管部分を延長すればかなり正確に測定できるはず。多分。流体に詳しい人に教えて欲しい。

ベンチュリには小径部と大径部にホースニップルを接着剤で貼り付け、マノメーターからのホースを接続できるようにした。

メインノズルとパイロットジェット負圧測定部

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この部分の負圧を測れる水柱マノメーターを作ろうとすると家の天井をぶち破る必要があるため、負圧が測れる圧力センサMIS-2500-015Vを用意した。秋月電子で購入できる。1個1500円もするのでかなり痛いが、メインとパイロットの測定でいちいち付け替えては能率が上がらないので2個購入。これをホースでメインジェット、パイロットジェットに繋げる。センサは5Vで動作するので、5V入力系も適当に作る。あとは出力ピンの電圧をテスターで計測し、換算式に放り込んでやればゲージ負圧がわかることになる。

 

完成

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出来上がった状態はこの通り。ゴリラテープを駆使しまくり非常に不細工だが、試運転したところ大まかには合っている数字がとれたので、とりあえず使い物にはなりそう。

 

後日問題点を改良した記事はこちら

tutc-mitsukesibu.hatenablog.com