エンジンが吸い込む空気の量と掃除機のパワーとの関係を考える

吸引力と流量の謎

自作フローベンチを作って実験を進めてみると、どうやら実際のエンジンの動作範囲に近い空気流量は出ているようだが、これがどれくらいの回転数の吸引力なのかという疑問が浮かんできた。今現在掃除機のパワーはmaxで測定しているが、仮にWOTで10000rpmで回っている時の吸引力が掃除機から発生しているとすると、スロットル開度が少ない時にそのパワーで引いてしまうのはなんだかまずい気がする。実際にアイドリングや開度1/8で10000回転も回る状況など無いからだ。これでは低開度時の負圧が云々と議論しても始まらない。というわけで掃除機のパワーとエンジンの回転数の関係を知りたくなった。

理論上の空気量を求めてみる

そこでまずエンジンの回転数によってどれくらいの空気が吸い込まれるかを計算してみる。2サイクルエンジンが吸気するための力を生み出すのは、下死点から上死点までの1ストロークである。つまり回転数によらず、エンジン自体は常に行程容積分の空気を吸おうとする。しかし実際には吸気タイミングやリングからの漏れ、空気の慣性などの影響により、これより下回るかやや上回る範囲で変動する。この行程容積と実際に吸い込まれた空気の量の比を給気比という。実際のエンジンでは、給気比は最高出力回転数で1に近づくようにポートタイミングが設定されている。というわけで今回は給気比1としてとりあえず計算してみる。

排気量125ccの場合、行程容積は当然125ccである。これが最高出力回転数の、例えば10000rpmで回っているとする。10000rpmを1回転あたりの時間に直せば6ms/revとなり、すなわち下死点から上死点までの1ストロークは3msで完了することになる。つまり125ccの容積を3msで吸うわけだから、流量は0.0479m3/sとなる。給気比が仮に1より小さい場合はこの値に給気比をかけたものが実際に吸い込まれた空気流量となる。これで理論上最大に吸い込める空気の量を計算できたことになり、実際のエンジンでこれを上回る空気を吸い込むことはないという、限界の値が求まったわけである。

これで回転数と流量の関係の上限値が分かったが、実際のエンジンでは回転数により給気比が変化するので、これだけを元にするのは心許ない。そこでエンジン出力からも空気量を求めてみる。

YZ125の最高出力はダイノテストの結果を見ると後輪33HP/11500rpm程度で、クランク出力だとこれの1割増しで36馬力くらいだろう。これをキロワットに変換すると、26.9kWとなる。この出力を得るために必要なガソリンの量がわかれば、そこに空燃比を掛けてやれば空気量も分かるという寸法だ。

まず26.9kWを得るのに必要なガソリンの量を計算してみる。Wというのは仕事率の単位で、単位時間あたりに出来る仕事の量を表しているから、26.9kW=26900J/sである。

一方でガソリンの発熱量は44MJ/kgであり、これをJ/gに直せば44000J/gとなる。つまり出力をガソリンの発熱量で割れば、単位はg/sとなり、必要なガソリンの流量が分かることになる。ただしこれは熱効率を1とした場合で、実際のガソリンエンジンでは最近の低燃費エンジンでも最高38%くらいである。少し昔のなんの変哲もない4サイクルエンジンで25-30%であることを考えると、未燃ガスを排気管に垂れ流しているような2サイクルレース用エンジンではせいぜい15%くらいだろう、と想定してみる。つまり、我々はガソリンが持つ発熱量の8割以上を使って山の中でクーラントを沸かしたり、排気ガスとして熱や未燃ガスを捨てたりしていることになる。なんとかしてきれいなお湯でも沸かして熱の回収がしたくなるが、それはさておき、この熱効率を踏まえて必要なガソリン流量を計算すると、4.07g/sとなる。これにA/Fを12として掛け合わせると、必要な空気流量は48.8g/sとなって、これを20℃ 1atmでの空気密度で除してやれば0.0402m3/sとなる。先ほど回転数と給気比から導いた値が0.0479m3/sだから、全然見当違いの数字ではなさそうだ。この差がつまり給気比の差を表しているのだと思う。もちろん回転数によって熱効率も変わってしまうが、それは予想のしようがないので今回は無視する。

とにかくこの方法で計算すれば、各回転数での馬力さえ分かればその回転数で吸っている空気量が分かることになる。各回転数での馬力はシャーシダイナモで測定したデータを拾ってきてやればいい。というわけでYZ125と250について計算してみた。

給気比は馬力から割り出した空気量と、理論上吸えるはずの空気流量との比率として導ける。これを見ると、なんとなくそれっぽい数字になっている。はたしてそんなに給気比が落ちるのか?という疑問はあるが、相場が分からないので良し悪しの判断はできない。ただし馬力は事実のデータであるし、その馬力が出るということはそれだけの空気を吸い込んでいるわけなので、そこまで大きく外した値ではないと思う。

あとはこの値を使って、掃除機のパワーを増減しつつこの空気量になるようなパワーを探し当てれば、掃除機パワーとエンジン回転数の関係を紐づけられることになる。

 

2024/2/5追記

よく考えると低回転での馬力が少ないのはチャンバーや排気タイミングが高回転寄りに設定されているからで、給気比はここまで低くはならなそうだ。低回転では筒内に新気が残らずに吹き抜けてしまっている=熱効率が下がると考えたほうがよさそう。

というわけで給気比は0.8から1.0までの間で変化するとして計算してみる。