ここでは最もシンプルな構造のキャブレターである、単純気化器をモデルに、なぜキャブレターが空燃比を一定に保てるのかについて説明する。
また本来数式を使って理論的に説明するべきことを、何の根拠もなく文章だけで定性的に説明するような書き方をしていることをお詫びする。仕組みの詳細が知りたい場合は最後に書いてある参考書籍か、気化器 Carburetor を参照されたい。
まず、単純気化器について説明する。このキャブはメインジェットから計量された燃料がベンチュリの負圧で吸い出されて、メインノズルから噴出する、という単純な仕組みを持つ。バイクのような可変ベンチュリ(スロットルバルブがベンチュリ径を変更する)の仕組みはない。
バイクに使われる、いわゆる可変ベンチュリキャブレターを見慣れている場合、メインノズルにニードルが刺さっているので、吸入空気量=スロットル開度によって燃料の流路面積を変更しないとキャブレターとして成り立たない、みたいなイメージになるのだけど、実は四輪のキャブレターはこの単純気化器のメインノズルよりエンジン側にバタフライバルブを設けているだけで、メインノズルの流路面積は変わらない仕組みになっている。それで吸入空気量の増減に対して一定の空燃比になるわけないだろうって構造なのだけど、実はこれでちゃんと走る。自然の摂理とは不思議なもので、ベンチュリにメインノズルが突き出してるだけで、吸入空気量増減に対して勝手にガソリンが増減して一定の空燃比になるように出来ている。
ただ単純気化器には欠点もあって、実は吸入空気量が少ない領域ではメインノズルにかかる負圧が少なくなるため、リーンに振れてしまう。吸入空気量が大きくなるとこの負圧が大きくなって、負圧の変化に対して鈍感になるため、一定の空燃比に漸近する。それを表したのがこのグラフだ。吸入空気量が少ない左側で極端にリーンにふれていることに注目して欲しい。また油面差hによる影響で、吸入空気量が極小の時にはそもそもガソリンを吸い出せていない。実際の気化器ではこの全くガソリンを吸いだせない領域についてはスロー系と呼ばれるスロージェットからの燃料を供給するのだけど、それより先の極端にリーンに触れている領域はスロー系だけでは補えないため、別の仕組みが必要になる。
そこで考え出されたのが、エアブリードである。メインノズルにエアブリードジェットから空気を導入する事によって、メインノズル内のガソリンが、ガソリンと空気の混合物になる。するとガソリン単体より比重が軽くなるので、結果的に弱い負圧でも吸い出せるようになる。そうすると、先のグラフでリーンに触れていた領域が適正空燃比に近づくことになる。
この図の通り、穴の空いていない普通のストローより、途中に穴の空いているストローの方が軽く飲み物を吸い込めるというのが、エアブリードの効果としては実感しやすい。
これはエアブリードのありなし、またメインノズルのどこにエアブリードを貫通させるかによる空燃比変化を表したグラフである。上が理論値、下が実験値を示している。Qab=0がエアブリードなし、その他がメインノズルの油面より上または下に種々の距離でエアブリードを空けた場合の空燃比を示している。これを見ると、エアブリード位置が油面ちょうど(0mm)の場合、エアブリードがない場合より広い範囲で一定の空燃比を取ることが分かる。これがエアブリードの効果である。
まとめると、エアブリードがあると、無い場合に比較して吸入空気量が少ない領域でリッチに振れることになる。エアを混ぜてるのにリッチに振れるのは感覚と逆だが、これは単純気化器における空燃比グラフリーンに振れている傾向が補正されるという意味で、エアブリードをすれば単純気化器と比較して全体的にリーンに寄る。
実際の二輪車用キャブレターでエアブリードがどのように設けられているかを示す。この図の10がメインノズルであり、そのメインノズルとキャブレター本体の隙間が20である。この隙間に向けて、ベンチュリ内エアクリーナ側から空気を取り込む経路が18で、この経路内にあるジェットがメインエアジェットとなる。18から取り込んだエアは、図示されていないが、メインノズルに空いている複数の小穴からメインノズル内に導入され、ここでベンチュリ内に吸い出されようとする燃料と混合される。またエアブリードには、燃料を微粒化するという目的もある。
実際のエアブリード穴があるメインノズルの画像を示す。3つ並んで空いている孔が、エアブリード穴である。
また今まで話してきたエアブリードはメイン系についてだったが、スロー系でも話は同じになる。メインエアジェットから分岐する形でエアスクリュを介して調整されたエアが、スロージェット本体にあるエアブリード穴で燃料と混合される。要はエアスクリュというのは、可変式のエアジェットのようなものである。
ここでまでで、エアブリードの効果により、一定の空燃比を保つ範囲を吸入空気量が少ない領域へ広げることができること、またエアブリードがあることで、エアブリードなしの場合より全体的にリーンへ振れることが分かった。ここで、ジェット径を拡大してエアブリードも大きくした場合と、ジェット径を小さくしてエアブリードも小さくした場合で、ある開度でどちらも同じ空燃比が得られた場合に、双方の何が違うのかという疑問が生じる。具体的には#35のスロージェットでエアスクリュ2回転と、#37.5のスロージェットでエアスクリュ3回転とで得られた空燃比が同じだった場合、どのような違いがあるのかという疑問である。
これは上がメインノズル直径2.5mm、下がメインノズル直径4.5mmの際に、エアブリード穴のサイズによって空気流量に対して空燃比がどう変わるかを表したグラフである。これにより、ノズル直径によらず、エアジェット径を拡大するほど、吸入空気量が多くなるにつれてリーン振れていく傾向が強くなることが分かる。ただし、ノズル直径が大きい下のグラフではその変化は鈍感になっている。
これをスロージェットとエアスクリュで当てはめて考えてみる。
仮に#35のスロージェットでエアスクリュ2回転と、#37.5のスロージェットでエアスクリュ3回転とで得られたアイドルでの空燃比が同じだっとする。この時スロットルを開けていくと、吸入空気量が増えていくため、アイドルで同じだった空燃比でも、エアスクリュを多く開けているほうが、少なく開けているほうよりリーン傾向に振れていくということになる。つまり、エアスクリュでの調整と、スロージェットの交換は等価ではないということになる。
ただし、実際のキャブレターセッティングでは、スロージェットの選定とエアスクリュの回転数は実際の乗車でのフィーリングで決めるものであるし、せいぜい1,2ランク違いのスロージェットに対してエアスクリュを調整することしかないから、実際にこの特性が感じられるほどの差となるかは不明である。ただし、考え方として知っておくのに損はないと思われる。
グラフ出典は全て
魚住・竹内・荒井・鈴木 : 自動車用気化器の知識と特性, 山海堂,1984, ISBN4-381-10004-2
宝諸・高橋・横田 : 単純気化器におけるエアブリードの混合比調整作用について, 日立評論, 1962/9
浅野・中馬・芳賀・持田 : 空気ブリードによる気化器特性の変化, 日本機械学會論文集, 1967, 33(255)
による
スロージェット、メインノズルの写真はキタコHPより引用
本記事での引用文献は以下にまとめてあります。本来引用したグラフ、図等は全てそれぞれどの文献から引用したのかわかるようにしておくべきところ、あまりに手間がかかるという理由でこのようなやり方で引用文献を紹介する形になることを引用元および読者に対してお詫びします。