プライマリータイプとエアブリードタイプの違いについて

この記事ではキャブレターに用いられる2種類の方式、プライマリータイプとエアブリードタイプについて説明する。またそれらのメリットデメリットを示し、それを補うためにパワージェットやコースティングリッチャ等の補器があること、さらにミクニTMXがなぜパワージェットなしでレーシングキャブレターとして成り立っているのかをミクニ特許文献から紹介する。

 

f:id:TUTC_Mitsukesibu:20240119120403j:image

メインノズル(エマルジョンチューブとも言う)には、4stによく使われるエアブリードタイプのメインノズルを持つものと、2stによく使われるプライマリータイプのメインノズルを持つものがある。この図でいうと右がプライマリータイプ、左がエアブリードタイプとなる。TMX、PWK等はプライマリータイプで、市販4stに使われる純正キャブはほぼエアブリードタイプになる。

この二つのメインノズルの違いについて、まずエアブリードタイプから説明する。エアブリードタイプは、左の図の18で示すメインエア経路から、メインエアジェットを介してメインノズルにエア通路が貫通している。その場所がポイントで、10のメインノズル下部に貫通している。図では表されていないが、10のメインノズルには細かい穴がたくさん空いていて、ここでメインジェットから計量された燃料と空気が混ざって、気液混合状態になる。これは前回の記事で説明した通り。

 

このエアを混ぜる位置はキャブによって違うが、油面の下で混合するものと、上で混合するものと、その両方がある。どちらにしろ、ベンチュリに燃料を吹き出す前に空気と燃料を混合するというのは変わらない。この目的は前回記事で説明した通り、低空気吸入量の時でもリーンにならないようにするためである。

続いて右の図のプライマリータイプについて説明する。これは、38のメインエアジェットから来た空気が、メインノズルの上のほうに貫通している。そして、メインノズルには、空気と混合するための小穴は一切空いていない。つまり、導入されたエアは、メインノズルの穴の周りを環状に囲っている隙間に導入されることになる。そして、メインノズルから燃料が吸い出されると同時に、その周りから空気を噴き出して、そこで初めてメインエアからの空気と燃料が混合される。要は事前に空気と燃料を混合せず、メインノズル吐出口で初めて混ざり合うことになる。

f:id:TUTC_Mitsukesibu:20240119194454j:image

これはTMXをエアクリ側から見た写真である。ベンチュリ内中央下側にある突起がメインノズルのプライマリーチョーク部分である。プライマリーチョークに関しては後日別記事にて説明する。そしてそこからエアクリ側に寄ったところに正面を向いて空いている、網を被った穴がメインエア経路である。このメインエア経路が、真っ直ぐメインノズルまで通じていることになる。また、メインエア経路から90度交差し分岐する形でパイロットエア経路が空けられており、この分岐の入り口面積をエアスクリューで増減している。

f:id:TUTC_Mitsukesibu:20240119194459j:image

またスロットルバルブを抜いた状態で、上からメインノズルを見た写真がこれで、針の出入りするメインノズルの穴の周りを環状に取り囲むような隙間がある事がわかると思う。ここにメインエア経路から導入されたエアが繋がる事になる。

f:id:TUTC_Mitsukesibu:20240119082607j:image

この2種類のタイプの燃料噴出傾向を比較すると、グラフのようになる。低速、高速というのはおそらく低開度、高開度と読み替えても差し支えないと思う。プライマリータイプは低速から高速まで直線的に燃料流量が増えるが、エアブリードタイプは低速での流量を増やせる一方、高速域では流量が低下していく傾向にある。

つまり、エアブリードタイプのキャブで高速域を適正空燃比に合わせると、低速域でリッチになりすぎるし、プライマリータイプでは逆に高速域を適正に合わせると、低速域でリーンになりすぎる傾向にある。この特性をもとに、使用するエンジンに合わせてどちらのタイプかを選択することになる。

この特性を補正するために、パワージェットやコースティングリッチャ等の他を装着する事があるが、当然高価になるしセッティングも難しくなる。パワージェット等を使用せずにこの両方のタイプの長所をあわせもつキャブがあれば理想的なのだが、実はそれを実現したのがミクニのTMXである。

f:id:TUTC_Mitsukesibu:20240119082622j:image

ミクニが考えたのが、基本はプライマリータイプとしつつ、この図の10番(メインエアジェット)から来る空気を、通常のプライマリータイプ的に、メインノズル燃料流路の周囲からベンチュリに噴き出す流路(図のP)と、このメインノズル燃料流路の周囲にある空気流路と、メインノズル燃料流路を12番の小穴でつなぎ、エアブリードタイプ的にメインノズルで空気と燃料を混合した後噴き出す流れ(図Q)を併用する仕組みである。

この小穴12の効果を説明する。この図のように、針のストレート領域を使用している際は、針と筒の隙間は極めて小さい。また当然スロットル開度も小さいので、ベンチュリには強い負圧が立ち、小穴12にも強い負圧がかかることになる。すると10のエアジェットから空気が高い流速で吸い込まれ、針と筒から吸い出されようとする燃料を微粒化しつつ、燃料流速を上げてくれる。従ってプライマリータイプの弱点である低速域での燃料流量を増大する効果を持つ。

 

スロットルが開いて、テーパーに差し掛かってくると、12には強い負圧はかからなくなるため、低速域ほど強烈な燃料増量効果はなくなるが、依然としてエアブリードの効果を発揮する。これにより、エアブリードタイプほどの高速域での燃料流量低下は起こらなくなる。

f:id:TUTC_Mitsukesibu:20240119082638j:image

これはエアブリードタイプ、プライマリータイプ、そしてミクニ新開発キャブの燃料流量特性イメージを表したグラフである。このように、プライマリータイプで不足しがちな低速域を小穴で増強しつつ、エアブリードタイプのような高速域での燃料流量低下を押さえた形状となり、パワージェット等の補機を使用せずともエンジンが要求する燃料流量の幅におさめやすくなっている。

f:id:TUTC_Mitsukesibu:20240119200310j:image

f:id:TUTC_Mitsukesibu:20240119200313j:image

実際のTMX38のS-1メインノズルの写真も載せておく。見ての通り、小さな穴が3個空いている。これがエアブリード効果をもたらす。

 

ここからは推測なので当てにしないようにして欲しいが、この図のイメージは、おそらくプライマリーチョーク高さがグラフの傾き、ジェット大小がグラフの高低を制御するのではないかと思う。もう少し考えが煮詰まったらまた追記するか別記事に記す。

f:id:TUTC_Mitsukesibu:20240119082645j:image

さらにちょっとややこしいが重要なグラフも説明する。これは見ての通り低速域と高速域でのノズル負圧を、プライマリータイプと、小穴付きメインノズルタイプで比較したものである。

見ての通り、低速域では新開発キャブのほうが負圧が大きく下がっていて、高速域になるにつれプライマリータイプよりやや低い程度に落ち着いている。基本的に負圧が低くなるほど燃料流量は減るので、高速域での燃料流量をプライマリータイプより押さえられるのは理解しやすいと思う。ただ、先ほどまで説明した通り、TMXでは低速域での燃料流量を増強する効果がある。ただこのグラフでは負圧は逆に低まっている。これはどうしてかというと、小穴のエアブリード効果によって、メインノズルの気液混合流の流速が高まるため、メインノズル出口に立つ負圧が下がっていることになる。負圧が下がっても、針と筒の狭い隙間から高速で噴き出すエアの力によって燃料流速が上がり、逆に燃料流量は増えるという仕組みと考えられる。

まとめると、従来のエアブリードタイプは針のストレート部と筒の隙間に空気を噴き出すわけではなく、それよりはるか下の広い隙間で空気を混合していたので、低速、高速でのエアブリードの効き具合を調整することができなかった。これを針のテーパー変化をうまく利用して、エアブリードの効果を調整できるようにしたのがこの特許であり、それが織り込まれたキャブがTMXである。

 

本記事での引用文献は以下にまとめてあります。本来引用したグラフ、図等は全てそれぞれどの文献から引用したのかわかるようにしておくべきところ、あまりに手間がかかるという理由でこのようなやり方で引用文献を紹介する形になることを引用元および読者に対してお詫びします。

2st用キャブレター TMX PWKに関する特許文献まとめ - TUTCミツケ支部